たんたんたんとした日々のこと

障害のある子供たちと過ごす日々のことを綴っています。

つねくり。

彼女は「つねくり」の達人です。

もしかしたら方言かもしれないので、一応解説しておくと「爪を立てて皮膚をつねること」を言います。

彼女の「つねくり」はびっくりするほど痛いのです。ジーンズの上からでも効いてきます。急所を的確にとらえる術を心得ているのでしょうか。

それだけではありません。

手の動きがおそろしく速いのです。瞬時に何の気配もなくメガネをかっさらっていきます。飛び抜けた武術的なセンスがありそうです。

彼女は小柄で細身の自閉症の女の子です。

彼女と初めてあった時は戸惑いました。というのは「自傷行為」があったからです。自閉症の子供たちの中には自傷行為をする子が少なくありません。

彼女もそのひとりでした。激しく床に頭を打ち付けたり、自らの手足をつねった痕は痣になっていました。時にそれが他者に向けられることもあり、それが前述したものです。

最初は痛いのでいかに「攻撃」を防ぐかを考えて彼女と接していました。

その中でふと彼女の「つねくり」はもしかしたら何かの「確認行為」ではないかと思ったことがありました。つねっている時の感触が「安心感」をもたらしているのかな、と…。

そこで試しに好きなだけ「つねくり」させてあげようと思いました。

…が、あまりの痛さにすぐに断念しました。

ほんと彼女の技はすごいのですよ。…これは言い訳です。

しかし夏休みに入ったばかりのある日、見たこともない穏やかな表情の彼女を見ました。

「つねくり」を封印したかのように優しく手をつないできたのです。

これには驚きました。夏休みに入ったことでストレスが減ったからでしょうか。

今もどのように向き合っていけば良いのか、どのように接したら良いのか、明確なものはありません。

ただ、彼女のことを少しでも理解しようとする姿勢だけは持ち続けていたい、と思うのです。